詩吟 - それはビッグバンを起こす行為
映画『死なない子供、荒川修作』を観て
今年(2010年)5月に息を引き取った建築家であり芸術家の荒川修作。彼のドキュメンタリー映画が12/18より渋谷のイメージフォーラムで上映されています。
彼の代表作と言えば、95年「養老天命反転地」(岐阜県養老町)、2005年「三鷹天命反転住宅~In Memory of Helen Keller~」(東京三鷹市)などが衝撃的です。三鷹の反転住宅(写真)は、車がびゅんびゅん飛び交う東八道路沿いでヤッバいのがあるなーと思って運転していた記憶があります。
快適さを追求し続けそれを為し得た近代の反対をゆく、所謂 "ザ・住みにくい家" をなんだか知んないけど作っちゃった人がいるんだなーという認識でした。最初は。
この映画は、主にその「天命反転住宅」に住む人々とそのいわくつき建築物、荒川修作の支離滅裂風に見えるセリフによって構成されています。
「天命反転住宅」は、壁、天井、物置全てがビビットな色でそれぞれ配色されており、球体の部屋があったり、電気のスイッチが手の届かない場所にあったり、部屋の中にでこぼこや砂利があったりなど…。
彼はこの住宅に対し、
「ここに住むと身体の潜在能力が引き出され、人間は死ななくなる」
と言っています。
"人間は死なない"、いったいどうゆうこっちゃ。
死ぬに決まってるやんけ。と思うわけです。
人間(自分)という有機体が、環境に合わせて、敏感に、進化していく。悪天候の中でも繁殖し続けるジャングルが如く生き死にを繰り返して進化してゆく…とは?
ただの有機体であること
ある友人の話。
お気に入りの靴があって、それを履くとどうしても靴ずれをしてしまうのだが、好きすぎて、血を流してまでも履き続けていたところ、だんだんかかとの方が強くなってきて靴ずれをしなくなったとのこと。
すばらしきかな、身体!!!!!!
自分の身体というものは意識で支配しておりコントロールしてるつもりであって実はそうではない。草木と同じようにただの有機体であるということ。
"死ぬ"とはつまり意識がなくなるという意識全の捉え方であって、そもそも人間自体が意識ではなくただの有機体であるとすればそれに終わりなどという意識的な観点などありえない、ということだと思いました。
徹底的に間違っている!
荒川修作は、哲学や思想、言葉は、全く何ものでもない。全ての現象が全く違う形で常に生み出されている、と。歴史に依存するという概念も何ものでもない。「徹底的に間違っている!人間の生き方は。」とツバを飛ばして断言していました。そして常に新しいものが宇宙のビッグバンが如く生み出されているのだと。
彼が熱くなって断言するときのエネルギーは半端なく、スクリーン上でも狂人そのものです。あまりに概念を覆すため拒否反応が出ざるを得ないのですが、彼が彼自身の有機体を使って言葉を言い放つ瞬間瞬間にビッグバンのようなエネルギー体が生まれているように思えました。
何かを話す、言葉を介して伝えるときに、
そこまでしてエネルギーを生み出すことがあるでしょうか。
詩吟 - それはビッグバンを起こす行為
詩吟にはそれがあります。
詩を吟ずるという行為を媒介として、強いエネルギー物質を生み出すことができるのです。
意識下ではなく、感覚、身体が、有機物として反応せざるを得ないもの。例えば、感情が高まって大声で怒鳴り、叱咤する。される。そんな目に合えば、ビクリと身体が反応します。そんな感覚、身体が無意識に反応する行為(もちろん潜在的に誰しもが持っているもの)、と同じであり、強いエネルギー体を発すること(ツバが飛ぶぐらいの息の強さ、それにともなう腹筋の行為、など)。それが何なのか…。
詩吟は言葉の語尾を長く伸ばすのが特長です。歌でも同じかと思いますが、何か歌や音を聴いているときというのは、聞く側がそれと同じように再生しています。しかも次を予測しながら。その予測の範疇を超えて、さらに長く引き延ばされる行為(具体的には腹筋の力とエネルギーありき)が起こると「うわわわ!」という感覚に陥り、ものすごく表面的には「すんげーじゃん!」といわざるを得なくなります。
ビッグバンが今、起きたんだなあ、と。
朗読と詩吟の違い
詩吟にはそれがあって、朗読にそれはない、とは言い切れませんが、行為、使わなくして確立されない技術として、朗読にはテンポやリズムがあり、詩吟には息を強く吐くといった筋肉や内蔵レベルの上下運動があり、言葉それ自体から朗読のもつ概念や意識よりも離れたところにあるのではないか、そしてそれを行うことの行為として、細々としながらも伝えられてきたことや、詩吟がご年配に人気があることを、荒川修作が「老人ナイトクラブ」が作りたい、そうして若者がそれに憧れ早く年をとりたいというようになる、と生前言っていたことを重ねて考え、年を経ること=進化し続けること、という前向きな発想に感動しました。
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