あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音(あしおと)空にながれ
をりふしに瞳(ひとみ)をあげて
翳(かげ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂々(ひさしびさし)に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃(いし)のうへ
<三好達治/「測量船」より>
■語の意
* 甃(いし)・・・石。
* あはれ・・・作者が命のはかなさを思う感嘆詞。
* をみなご・・・若い女の子。
* うららか・・・天気が良くて穏やかな様子。
* をりふしに・・・ときどき。たまに。
* 跫音(あしおと)・・・足音。
* 瞳(ひとみ)・・・眼の中心にある黒い所。
* 翳(かげ)りなき・・・変わりのない。
* み寺・・・古い立派なお寺。
* 甍(いらか)・・・かわらぶきの屋根。
* うるほひ・・・しっとりとしたさま。
* 廂(ひさし)・・・軒(のき)に差し出た小さな屋根。
* 風鐸(ふうたく)・・・軒につってあるつり鐘型のもの。
* あゆまする・・・進める。