詩吟「甃のうへ」/三好達治

詩吟では、漢詩・和歌・俳句のほかに、三好達治の「甃(いし)のうへ」のような新体詩も吟じます。



あはれ花びらながれ

をみなごに花びらながれ

をみなごしめやかに語らひあゆみ

うららかの跫音(あしおと)空にながれ

をりふしに瞳(ひとみ)をあげて

翳(かげ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり

み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ

廂々(ひさしびさし)に

風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば

ひとりなる

わが身の影をあゆまする甃(いし)のうへ


<三好達治/「測量船」より>


■語の意

* 甃(いし)・・・石。

* あはれ・・・作者が命のはかなさを思う感嘆詞。

* をみなご・・・若い女の子。

* うららか・・・天気が良くて穏やかな様子。

* をりふしに・・・ときどき。たまに。

* 跫音(あしおと)・・・足音。

* 瞳(ひとみ)・・・眼の中心にある黒い所。

* 翳(かげ)りなき・・・変わりのない。

* み寺・・・古い立派なお寺。

* 甍(いらか)・・・かわらぶきの屋根。

* うるほひ・・・しっとりとしたさま。

* 廂(ひさし)・・・軒(のき)に差し出た小さな屋根。

* 風鐸(ふうたく)・・・軒につってあるつり鐘型のもの。

* あゆまする・・・進める。