詩吟は歌がうまくなる!

 
 先日のお稽古終りに、ある生徒さんが大きく目を見開いて私に言いました。


「先生!詩吟は絶対うたがうまくなります!」


「はぁ……、そうなの?」


「伸び悩んでいた生徒が(カラオケ)コンテストで優勝しはじめたってブログで書いてください!」


というわけでブログを書きます。


彼女は詩吟を始めて一年もたたないのですが、カラオケコンテストにでるのが趣味なほど、もともと歌唱力はありました。ボイトレも月6回も通っていたほど熱心で、それでも伸び悩んで詩吟にいきついたそうです。それが最近続々といい結果がでてきたとのこと。


とは言え、


「それは詩吟のおかげというより、彼女自身ががんばったからではないの?」


私は半信半疑でした。


なぜなら私は、


カラオケがへたっぴーだからです!!


毎日詩吟やってるのに、カラオケは全然だめだからです。


ここだけの話、某カラオケ番組から詩吟枠ということで出演の打診があったのですが、いざ大好きなの尾崎豊を熱唱したところ、あっさり「モノマネですよね」と言われ、なかったことになりました。


友達といくカラオケでは超盛り上がるのにぃ〜


しかも、モノマネではない!歌は情熱だ!情緒だ!そもそも詩吟は心で歌うんです!


と熱弁をふるってポカンとされてしまいます。きっとめんどくさい奴と思われたでしょう。相手は点数がとれるカラオケを求めてるんだから主旨が真逆なんですよね。


勘違い。ああ恥ずかしい。


というわけで、詩吟をして大きな声がでるようになる、とか、度胸がつく、というのはよくわかるのですが、歌がうまくなる、というのは実はあまり自信がありませんでした。(「詩吟女子」ではカラオケが上手くなってモテる、というコラムまで書いてるのに)


ところがどっこい、この結果です。


そういえば最近、特に始めたばかりの生徒さんから、カラオケ行ったら歌がうまくなったと言われた、とか、仕事のつきあいでお店でカラオケを歌ったらうまくなったと言われたとか、ちらほら聞くようになりました。


それでもまだ実感がなかったのですが、先日、5歳の生徒さんが、詩吟の稽古をしている渋谷のカラオケ屋さんのBGMでかかっている男性ポップスの難しそうな曲を聴いて、「あ、これよく聞く」 と言って小さな声で口ずさんでいたのですが、驚異的にうまかったのです。


詩吟はまだまだなのに。


あれ?


先のカラオケコンテストで優勝した生徒さんも詩吟はまだまだです。始めたばかりなので当り前なのですが、カラオケでは優勝した。


あれあれ?


その生徒さんが言うには、友人の演歌歌手が「母音だけで歌う練習をする」 と言っていたそう。詩吟では、基礎として母音をしっかりだす練習を徹底的にやります。


つまり、プロの演歌歌手と同じトレーニングをしている、ということ。


「だから絶対詩吟はうたがうまくなりますよ!!」と生徒さん。


これは予想ですが、石川さゆりレベルのプロ歌手でも基礎練は常にやっているのではないでしょうか。


プロもやっている基礎トレをやって、基盤ができて歌がうまくなる。


なるほど!ここで初めて合点がいきました。


詩吟の基礎は基盤を作るのです。


基盤ができなければその先はない。


しかも詩吟の基礎は、ドレミがわからなくても、言葉の意味がわからなくても、歌に自信がなくても、”誰でもできるレベル”で非論理的に構築されています。(大事なのはこの、”誰でもできるレベル” というポイントです。後で詳しく書きます。)


当り前っちゃあ当り前なのですが、なかなか実感できていませんでした。


でも今回この気づきのおかげで、長年抱えていたある悩みが吹き飛びました。


ちょっと長くなりますが、それについて書きたいと思います。


***


ナチュラル詩吟教室では、ほとんど全くの初心者さんに一から詩吟をお教えすることを中心として稽古をしています。声を出すこと、母音の発声、呼吸法、姿勢、目線、ちくわ……、などなど、これを順を追ってやっていくと、あら不思議。難しいと思っていた詩吟ができちゃうんです。


これを毎回やりながら、一年単位くらいで徐々に課題(身体や思考の可動域)を増やしていき、二〜三年目くらいで自然なゆらし(こぶし)ができるようになったり、力を入れずに大きな声が出せるようになったりします。


もちろん本人のがんばりもありますが、徹底的に基礎力がつく。なにより、詩吟自体がまあまあでも、普段の生活や仕事が変わるようです。


ここまではいいのですが、問題は詩吟経験者です。


昔やっていた、とか、今やっているけど基礎からやりたい、という方とは同じように全くのゼロから稽古していきます。


しかし、困ったことに、他流派で歌い方は全然違う上に、コンクールでいい結果を出したいという方がたまにいらっしゃることがあります。


これにはお手上げで、これまた恥ずかしながら教えられないと言って断ってきました。


なぜなら、詩吟の価値感が違う上、点数を競うコンクールでは、私がよかれと思う詩吟は評価されない確率が高いからです。(カラオケ下手の私が言うんです)


とは言え、このまま逃げてばかりではかっこ悪い。大きな課題として取り組んでみよう!他流派にも関わらずリスクを負ってまで来てくれる人の力になろう!と思いたち、稽古することになりました。


ところが、いざ稽古を始めたのですが、全然息が続かない。昨年のコンクールで入選するほどの方で、そこそこ歌えるはずなのにどうして……。少しも前にすすめません。


やっぱりこういうのは無理なのかも……。


歌がうまくなる実感がなければこの生徒さんにも申し訳ない、と諦めそうになりました。


しかし、ある時はっと思い、目指しているコンクールで入賞している先輩の詩吟を聞かせてもらいました。


するとどうでしょう。


めちゃくちゃ声が高いのです。


これを真似すれば入賞すると信じて、同じキーで練習していたのです。


その生徒さんは、その高さが出るには出るのですが、歌えない。でもこの高さで歌わなければ入賞できないからがんばる!と片意地はっていたのです。そういうルールなら仕方ないかと思っていたのですが、キーをかなり下げてみたらまあ歌えること。


しかも全然低く聞こえないし、高いキーのときより断然上手!


どうしてこんな単純なことに気づかなかったんだろう!


キーが下がったところで、声の聞こえ方はそんなに変わりません。声質によってキーが低いのに高く聞こえたり、反対に結構キーは高いのに低く聞こえるなんて日常茶飯事です。


お手本のキーと同じにして無理して歌うなんて超ナンセンスです。


なぜなら詩吟の最大のいいところの一つに、


自分に合うキーで歌ってよい。


というのがあるからです。


よく自分が音痴だと思っている人がいますが、自分に合うキーで歌っていないから、出せなくてはずしてしまうだけなのです。


普通の人や好きな歌の歌手よりうんと低かったり高くしたりしても、自分に合うキーで歌えば音がとれるようになります。


そう、あなたは音痴ではない。


自分に合ったキーで歌っていないだけだったのです。


(他にも理由がある場合ももちろんありますが)


コンクールで賞をとるような歌うまの素人や、プロの歌手は、特に最近の歌謡曲ではキーが高い人が多いです。それをそのまま真似しても声さえでない。音をはずす。自分は音痴なんだ。と自信をなくす。


そうではなくて、自分に合うキーにうんと変更して、自然に声が出せるようにする。そこから声を出すことになれる。たくさん歌う。そうしているうちに声域が広がって高い声や低い声も出るようになる。


つまり詩吟は、自分に合うキーで歌うことができる=”誰でもできるレベル”から始めることができるというわけです。


詩吟業界にはびこる「音程が高いから上手い」とか、「男性ならこの高さ、女性ならこの高さ」といった平均値に左右されないことです。そういうことを言ってくる先輩をよく見かけますが、「今はできないけどゆくゆくはそうなるのを目標にしよう」くらいに思うのがベストです。


なぜなら、何十年もやってるのに平均値を出せないのは指摘されて当然かもしれませんが、始めたばかりの我々にとっては理屈が合わないことがよくあります。


そういうわけで、私とその生徒さんは先を急ぎすぎたのです。


歌の上手い人の表面だけ真似しても上手くならない。


自分の出せる声の音域で基礎練習をしなければならない。歌の上手い人だって、今でも基礎練習をしているのです。そこから真似するべきなのです。


これに気づいてから、その生徒さんとはゼロから基礎練習をするようになりました。たまに表面的な節回しがでてきてしまうのですが、ナチュラル詩吟教室の稽古では、それは脇においておいて、徹底的に基礎をやります。


彼がこの先、コンクールで入賞するような詩吟に完成させるのは彼の仕事です。そのための基盤づくりがナチュラル詩吟教室であるということ。


「詩吟をしていろいろなことの基盤づくりができるようにしよう」


私は気持ちをあらたにし、とても前向きな気持ちになりました。


***


さてさて、その生徒さん。「最近 ファンが一人できた」と嬉しそうに報告してくれました。


河原で詩吟の練習しているそうなのですが、「もう一度うたって!」と言ってくれるおばちゃんがいるとのこと。


めでたしめでたし。


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