詩吟の歴史



◆詩吟の起源 

詩吟はもともと、音楽的な「うた」としてではなく、学問や精神教養のために始められたものでした。

詩吟の起源は、江戸幕府の学問所・昌平黌と言われています。1680年、四代将軍家継が始めた文治政策によって、儒学のほかに漢語教育にも力が入れられました。

1700年代に入り、漢学の勉強の補助と精神教養のため、漢詩に素朴な節をつけて詠まれ、吟詠されるようになりました。これが次第に口伝によって各藩に伝えられ、全国へと波及していったのです。


◆詩吟の最盛期

現在のうたい方となる詩吟が大いに盛り上がるのは幕末でした。時事を憂い、自らを励ますために漢詩が作詞され吟じられたのです。

漢詩だけでなく、詩吟で吟じられる詩歌のほとんどは、自然の風景や人間に対する感情の興趣を、日本語の文字という媒体を使って表現するものですが、幕末は漢文という文字と、めまぐるしく変転する時代がうまくマッチしていたのかもしれません。

明治初期は天皇が詩吟を好まれたといいます、また、政界をはじめてとして一般にも詩吟は愛好され、琵琶にも詩吟が取り入れられていました。


「詩は志」という詩の原型を純粋な形で表現し得た時代であったこと。詩の作者がすなわち吟者であり、作者自身が自分の感動を込めてうたいたいようにうたうことが第一義で、楽器伴奏というものはなく、ときには茶碗酒のその茶碗を箸で叩き、ときには下駄でリズムをとりながら高歌放吟したのです。まさにブルースです。


◆詩吟の衰退

幕末の詩吟は形式的なものがなく、自己表現の手段であり、自分の所信を述べ相手に伝えるというところに価値があったのです。それゆえか、維新の武士たちが熱血ほとばしるままに自己的に"うなる"うたい方が一般的なイメージとなっていました。

戦後、詩吟は士気鼓舞として使われた=軍国調として敗訴されてしまい、伝統芸能としながらも、現在では国の詩吟教育の基礎を指導する機関は全くありません。 また、吟詠理論や発声方法・呼吸法なども確立していません。


◆詩吟の復興 

かつての詩吟は精神教養から始まり、固いイメージがありました。しかし現在では、リラクゼーションの手段として、また、良い文学が手軽に味わえるツールとして、芸能ではなく日本文化として、多くの人々のたしなみになっています。