夏目漱石と言えばどうしてもこの逸話が浮かびます。彼が英語の先生をしているとき、「I love you」をこう訳しました。
「I love you」=「月が綺麗ですね」
なんとロマンチック!と今なら思いますが、明治時代には「愛する」という表現がなかったからです。二葉亭四迷も非常に苦労をしたそうで、
「I love you」=「(あなたの為なら)死んでもいい」
と訳したそうです。
- そもそも愛ってなんぞや!?
アメリカに長く住んでいた友人に思い切って聞いてみました。好きな気持ちを伝えるには「I love you」で合ってるの? それはそれでそのままだけど、本当につきあいたいだとか告白するのであれば「To be with you」だね!「一緒にいたい」かー。そんなこと恥ずかしくてなかなか言えませんよね。
漱石先生の逸話には、「月が綺麗ですね、程度に言っておけば、まともな女性になら、伝わるはずだ」なんてくだりがあります。
- 月をつかったロマンチックな俳句
与謝蕪村の有名な俳句にこのようなものがあります。
菜の花や 月は東に 日は西に
(与謝蕪村)
一読して壮大な景色が目に浮かびます。実はこの俳句にも元ネタがあり、江戸時代の俗謡集に、
月は東に、すばるは西に、いとし殿御はまん中に(丹後の国)
つまりは、「菜の花や」の一句はこうともとれます。
菜の花や 月は東に 日は西に (愛しき人は真ん中に!)
菜の花畑を真っ直ぐ、好きな人へ向かって歩いて行く様子が目に浮かびます。「菜の花や」が愛を伝える一句だとすれば、好きな人に菜の花をプレゼントするってのはどうでしょうか。
- 龍馬も古典を引用した
似たようなもので、かつて坂本龍馬が愛する人との別れ際に方袖を破って渡しました。しかしそこにも裏意味が!
歌舞伎や人形浄瑠璃にもなった『御所桜堀川夜討』にもある有名なくだり、弁慶が生涯に一度だけ女性を愛したといわれる恋人おわさと一夜をともにしたとき、着ていた着物の袖を、おわさに形見としてわたし、夜明けとともに去った、というエピソードを、相手が知っているということをふまえてのことだと察しられています。
袖をもらった相手がどんだけ龍馬を愛慕ったか。
悪い男だー(尊敬をこめて)。
- 愛の告白に吟ずるとき
「菜の花や」の意味をやんわりと伝えるなりしたうえで、好きな相手に向かって全身全霊をもってこれを吟ずる、という愛の告白に挑戦するのもいいかも……。
一緒にいたい、とか、共にがんばろう、とかジャパニーズ現代ポップソング的なセンチメンタリズムを感じるのも良いですが、短くて美しい日本語を繰り返し刻むことで心の扉も開かれるかもしれません。