入学式や歓迎会で吟じよう

4月になっても冬みたいに寒い昨今

 4月。新学期や新年度の始まりです。フレッシュな生活が始まった方も多いのではないでしょうか。


ナチュラル詩吟教室でも、20代の生徒さんがやれ新社会人だ、やれ新しい職場だのワイワイ言っていて楽しそうです。


新社会人になったある生徒さんは、職場の研修で、「良いプレゼンには良い声が必須。そのためには腹式呼吸が必要」と教わったそうで、お腹をさわるだけで腹式呼吸がわかる、とのこと。そして「私、腹式呼吸ができてたんです!詩吟やっててよかった!」と嬉しそうでした。


さて、前回のコラム「卒業生にたむける詩吟を謝恩会で吟じてみた」で周囲から大好評だった生徒さんが、早速今度は、「新入生歓迎会に合う詩吟はありますか?」と尋ねられました。


つい先日卒業式の詩吟をやったばかりだったので、「もう!?」と思わず声が出てしまいました。


とは言え、 新入生歓迎会に合う詩吟は迷うことなくぴったりなものがありました。それは、江戸時代の儒者・広瀬淡窓の「桂林荘雑詠諸生に示す」 という漢詩です。(著書『詩吟女子』でも状況は違いますが、詩に関して詳しく解説しています。)


広瀬淡窓は、桂林荘(咸宜園)という私塾を開いて、全国から学びたい輩が集まり、寝食を共にし、勉学に教えました。淡窓から直接学んだ人は2900名余り。そこで学んだ人たちが各地へ戻り、人材育成に励み、明治に通じる教育の土台を築きました。


「桂林荘雑詠諸生に示す」 という漢詩は、淡窓が塾生たちを励ますためにつくったもので、詩の内容はこうです。


道うことを休めよ他郷苦辛多しと
他郷での勉学は苦しいこと辛いことばかりと言うのはやめなさい

同袍 友有り 自ら相親しむ
ここでは同じどてらを着た友がいて自然と仲良くなるのだから

柴扉 暁に出づれば 霜雪の如し
(塾舎の)柴の扉を開くと朝日が昇り霜は雪のように光っている

君は川流を汲め 我は薪を拾わん
君は川から水を汲んできてくれ 私は薪を拾ってこよう


(「桂林荘雑詠諸生に示す」広瀬淡窓)


なお、実際に新入生が来るたびに、門下生たちがこれを吟じて迎えていました。


勉学に励もうとはるばる故郷を出てきたものの、不安を抱える人も多かったことでしょう。


そんなときに先輩たちが「心配いらないよ、仲間がいるさ!」という内容のこの詩(しかも先生が作ってくれたもの)を、元気よく吟じてくれたなら、きっと心強かったのではないかと妄想に耽ります。


というわけで、状況としては入学式や新人・新入生歓迎にぴったりなのです。不安でいっぱいの新人さんに向けて、この詩を吟じて歓迎してあげましょう。きっと喜んでくれるはず……。


***


新しい出来事と言えば、最近ヨガも始めたある生徒さんが、ヨガのレッスンの後に、何故か「すべてのものが愛おしくなるんです」と言っていて、思わず、私(ほぼ毎日ヨガに通っている)も、「わかるー!!」と絶叫してしまいました。


これに関しては、変に思われても何なので黙っていたのですが、本当にそうで、ヨガの帰り道には必ずといっていいほど、やれこんなところにこんな可愛いお花が咲いていたとか、小鳥が鳴いているとか、そういう或らゆる些細な幸せに気付くわけです。


まさか、自分だけだと思っていたのですが、この生徒さんもそうだったということを知って、がーん(良い意味で)、となっているわけです。


ヨガをやって、汗やら何やらたくさんいろいろなものが排出されて、きっと余裕が出たのですね。だからこそ、普段気付かないものに気付ける余裕が出たのかもしれない、とその生徒さんが言いました。


私がヨガに通う理由が実はここにもあるのですが、それにしても、詩吟を吟じて、このようになれればいいなあ、と切に願います。


それにはどうすべきか。


まだまだ精進の余地があって余り得る。


途方もない旅のようにも感じますが、


新しい年度と共に、目的地は定まったように感じます。


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