詩吟は心が豊かになる



先日、ZIP-FMという名古屋のラジオ局に電話出演させていただいて、詩吟についていろいろお話しさせていただきました。


中でも、最後に「詩吟を楽しむ鍵は○○」というキーワードの部分があって、事前に用意しておくよう課題としていただいていました。(そのコーナーでは、毎回何かしらテーマがあってそれで〆るというもののようです。)


実は、これにはすこぶる悩みました。


こういう大切なことを一言で表現するのは非常に難しいことだと、改めて聞かれて気付かされたわけです。


毎日が詩吟修行中の身の私にとっては、「生きている意味って何ですか?」くらい、まるで答えの出様のない難問でした。


悩みに悩んだ挙げ句、ナチュラル詩吟教室の生徒さんはみんなどう思ってるんだろう?、と思い、生徒さん一人一人に聞いてみたんです。


すると、詩吟を楽しむ鍵とは、「日本語の美しさ」とか、「地声」とか、「自分をさらけ出すこと」とか、人によって様々でした。


それで改めて、「詩吟の楽しさとは、人によって様々なのだな~」ということがわかりました。つまり、詩吟は多様性あるんだと感じたり。


それにしても、これまでの生徒さんの意見は、詩吟を実際に習ってみて、その上でしかわからない実感によるものであるということに気付いて、これは詩吟を知らないラジオリスナーには飲み込めない意見なのかもしれない。


なので、もっともリスナーから離れている、長年詩吟漬けの私の思っている「ところてん論」や「ギャップ論」(意味不明)はとてもラジオでは言えないなー、と感じていたところでした。


そんな中、ある年配にさしかかりの生徒さんが、(詩吟を楽しむ鍵とは)「詩に恋をする」ではないでしょうか、と言うんです。やだー!そんな恥ずかしー!って感じです。


でも、あながち間違ってはいなくて、私自身、詩を好きになって詩吟が好きになるという系譜をたどって著書『詩吟女子』という本が書けた、というところもあり……。


その理由は?、とその生徒さんに問うたところ、「心が豊かになるからです」とありがちな言葉を冗談まじりにしっかと言われる。そんな曖昧な……、と思いながらも、これだ、と思う確信がある。



「心が豊かになる」そこに何の意味があるのでしょうか。



私は半信半疑のまま、しかし、底知れぬ自信を持ちながら電話収録で、そう答えました。



「詩吟を楽しむ鍵は、”詩に恋をすること”」



なぜなら、”心が豊かになるから”です、と。



収録が終わってから、堰を切ったように、パーソナリティの方から感嘆の意が伝えられました。


よくよく話を聞いてみると、彼女のお母さんがかなりの詩吟通で、数年前に亡くなってしまったのだけれども、そのお葬式では本人の意で詩吟を流したということ。自費出版で詩吟の本まで出しているということ。そして、詩吟は、”心が豊かになる”と言っていたということ。


娘さんであるパーソナリティの彼女にとっては、詩吟が、ただ歌うだけなのに、なぜ、母がこんなにも”心が豊かになる”と言って、詩吟を愛してやまなかった意味が、今まで全然わからなかった。しかし、その意味がわかったような気がします。と、私に言ってくれました。


私はとても嬉しい、何とも言えない気持ちになりました。


彼女のこのエピソードを聞く前に、私はこの番組の詩吟に対する質問で、詩吟が女性にもうけていますか、という中で、みんなに伝わってほしいという気持ちで、敢えて論理的に話しました。内容はこうです。


「詩吟に興味を持つ女性には大きく三つの傾向があって、一つ目は、和の習い事を始めたいという方で、中でも詩吟は道具もいらないし簡単に始められるからといった方、二つ目は小さな声で悩んでいて大きな声が出せるようになりたいOLさん、三つ目は声優さんやタレントさんを目指して一芸を身に付けたいという20代の方なんかもいらっしゃいます。」


しかしながら、この枠組みにもハマらない人はもちろんたくさんいて、その中でも、お母さんがやっていて、とか、お父さんがやっていて、とか、 おじいちゃんがおばあちゃんが、という話しも本当にたくさんあるんです。


そういう人たちの詩吟をやってみたい動機というのは、言葉に尽せないというか、もしかしたら別にやりたかったわけじゃないのにやらされていた、みたいのもある。


でも、何年か経て、何となくやってみようかな、お母さんやってたし、みたいのがある。


それが伝統文化の一つの自然な流れなのかもしれない。


***


正直言うと、コツコツ積み重ねていく世界だからとても楽しいばっかりとは言い難いこともあります。だからこそ、詩吟をやる上で、やっててよかったなあと思えるようになれたらいいなあ、という思いで『詩吟女子』という本を書きました。


もちろん、詩吟を知らない若い世代にも伝えたいという思いが一番で書きましたが、自分を含め、詩吟をやってきた人が誇りに思えるようなものにしたい。


それは結局、日本の文化を伝え残して来た先代を誇りに思うことだったり、お師匠やご先祖様を誇りに思うこと、つまりそれが、自らを誇りに思うことにもつながるのだということ。


そして、実際に自らの身体に詩吟を響かせることによって、そのようなことが体感できるのが、詩吟なのです。


だから、詩吟は続いているんだと思います。


何より、若い女性が詩吟をやってるなんて珍しいから、ということもあって(もう若くないけど)、出版を快諾してくださった春秋社さんに、詩吟を広めるきっかけを作ってくださったことに、本当に改めて感謝しています。


本を出したことによって、今回のようなラジオ番組に出演させていただいたことで、詩吟を知らない人たちに向けて、詩吟についてお話しさせていただく機会を得られることができました。


また、詩吟を愛してやまないお母さんをもったパーソナリティの方との素敵な出会いもありました。


だからこそ、この本がきっかけに何か心が豊かになるようなことが起これば本望です。



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▶「詩吟女子:センター街の真ん中で名詩を吟ずる」乙津理風著(春秋社)